心を強くする言霊のちから

 
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三つの毒
古寺や神社巡りをすることが一つのブームになった時期もありますが、いまでも中高年の人たちだけではなく、若い人たちでもそういうところを求めて歩く人たちもいるようです。
中には家で写経をしたり、寺を訪ねて坐禅などの修行に取り組むひとも多くなっていますし、お寺がそういった企画をして座禅の体験をさせる機会をつくるようにもなりました。
こうしたブームの裏には、やはり現代人が抱える心の問題ということもあるのだろうか。
いまはサラリーマンや働く女性にとっては精神的な部分でつらい時代だと思います。
家庭においても妻や子どもとの関係がうまくいかなかったり、若いお母さんも育児に自信が持てない、思うよう行かない、ストレスでノイローゼになりそうだとか、様々な悩みを抱え、心が疲れ切ってボロボロになって私を尋ねてきます。
問題の発生は、相手があって悩んでいる場合もありますが、相手には然(さ)したる原因がなくても、自分で必要以上に囚われ、悩みを増幅させている場合もあり、その多くは自分の心の使い方、拘るがゆえに苦悩している場合が多いものです。
そんな人たちのこれまでの経緯をよく聞き、受け止め、理解をすることは勿論ですが、私がよく提案することがあります。
先ずは、心には「三つの毒」があるというお話しです。
その一つは「貧・とん・むさぼる」です。
自分の好きなものだけに執着して、得たものはひとり占めしてしまう心を「貪・とん」と言い、また、足ることを忘れて貪る人間の限りない欲望のことをいいます。
その二つは「愼・じん・いかり」です。
自分が嫌だと思うことに腹を立てたり反発する。
あるいは得られないことに苛立ち、思うようにいかないことに怒りをあらわにしたりするという、人間の愚かな傲慢さや我がままをいいます。
その三つは「痴・ち」です。
ものの道理を知らず、すべてを自分の思うとおりにしたいという、目先の都合や欲望に翻弄される愚かさをいいます。
この三つが、人間の生まれもった心の光を曇らせてしまうということをその時の状況次第では話すことがあります。
前向きに明るく、強くなるために、まずこの三つの毒を捨てなさい、ということで話します。
言葉を大切に
悩み苦しんでおいでになる人たちの口からでる言葉は非常に暗く、そして過去に拘り、先を憂いることが多く、そして愚痴や不満の言葉が多く出てきます。
苦しんでいるから仕方がないといえば確かにそうですが、しかし、こうやって今まで苦しんできた自分から卒業して潤いのある生活をしたいのであれば、これまでのような生き方を繰り返していたのでは前進はできません。
苦しいからと言ってマイナス思考の言葉を発していたら、どれほど恵まれたチャンスがあってもそのチャンスをつかむことなどできないでしょう。
言霊の力
言葉というものは、正しく声にだしてこそ正しい力を持つのです。
日本では言葉の力によって幸せがもたらされる国と考えられてきました。
日本人の歴史は言葉に特別の思いを抱いていたのです。
言葉は心から発する音声であり、その音声には魂が宿るということを考えて大事にしてきました。
いわゆる言霊ですね。
言葉の霊力によってよい言葉を発すればよいことが起こり、悪い言葉を囗にするとよくないことが起こる、と信じてきました。
しかし、現在、日本人の心としっかり結びついていた、そのよき伝統や文化は失われてしまったかに見えるときもあります。
乱暴な言葉遣いを平気でおこなっていることに気づかない人たち、その言葉遣いがどれだけ禍をもたらすか解っていないのでしょう。
言葉によって人の心を突き刺していても、自分が正しいと思い込んでいる愚かさ、「痴」が蔓延しています。
いまこそ、この素晴らしい日本の伝統を甦らせ、その原点に立ち返るべきときではないだろうか。
言葉には魂が宿っていること、不思議な力が秘められていること、その力が自分の人生にも、他人の人生にも多大な影響を与えていることを、しっかりと理解して心にとめて生きたいものです。
こころを強くする
ということは、何も四国の霊場巡りをしなければならないということでもなく、神社仏閣を巡るということでもないと思います。
ましてや滝に打たれるということでもありません。
耐えるという肉体的な鍛錬ができても、心の正しさができずに不調和であれば、それは真の強さとはいえないでしょう。
私たちには誰にでも修行の場があります。
あなたが働く会社がそうだし、人との関わりもそうだし、ボランティアの場もそうだし、家で食事をつくる台所もそうでしょう。
禅の世界では、食べること、働くこと、学ぶことを大事にしていますが、特に台所は重要な修業の場と位置付けられています。
身体と、言葉と、心をフルに使っていれば、智慧も湧き出て、自信が出てきます。
そうなると、不思議と良い方向に人生が好転していきます。
言葉には力があるからこそ使い方によって、元気を取り戻し、幸福を引き寄せることもできれば、さらに落ち込み、不幸を招き寄せることにもなります。
最も大事なことは、良い言葉を使う以上に、悪い言葉、ネガティブな言葉を使わないことに徹することです。
「自分ならできる」という信念を言葉にしてみること。
例えば、
私は今日一日
足ることを知り
愚痴らず、怒らず、
何事も怖れず、悲しまず、そして過去に囚われず、
また、先を憂いず、気負わずに
ゆっくりと歩み
自分を信じて諦めず、正直、親切、そして愉快に勇気をもち
己の人生に対して
常に調和と慈愛を失わぬ
穏やかな生き方をします
こういった言葉を窮地のときに発することで、自分の心が励まされたり、自分自身を鼓舞することも可能となってくるものだということも知っていただければと思います。
自分の軸がぶれない生き方
私の仕事からみた場合の話しですが、人間の体の中心をしっかり取る為には、骨盤の前後の捻じれと、上下のスライドを確認して正しい位置にすることが基本であり、それが必要不可欠な条件です。
「腰」という字は、月にと書きますが、この要が骨盤の中心部分を示したものです。
骨盤はちょうど扇子の要と同じ働きをする位置にありますね。
人間の心も中心をとるには、そのときどきの状況や局面を素直に受け入れることが欠かせませんし、物事に対する考え方が偏っていたらそれはできなくなります。
組織で働く人たちによく見られる光景ですが、「上司が悪い」、「仕事相手に恵まれない」などと嘆いたところで、それは何ら物事の解決になるどころか、何の意味もないことは知っているはずです。
中心をとることは、いろんな迷い、苦しみに際して道を開く最良の方法であるし、それ以外に試練や困難、窮地を脱する道はないと思います。
中心をとるということは、あらゆる思考の原点を、拘りや、執着、その場の欲望、その場の都合、言いわけ、などで判断してはならないということです。
自分を捨てる
自分を捨てると言うと、何かしら自分が失われてしまうと言った人がいましたが、そんなことはありません。
ここでいう「自分を捨てる」という意味は、自我の自分をすてるということです。
誰もが、この自我心からくる物事の判断で、自分を窮地に追い込んでいることに気づけないでいます。
この自我心を捨て切ったときに初めて、その人の内面に持っている徳性がハッキリと表面に現れてきて本当の力が発揮され、不思議なほどに困難を乗り越えていけるのです。
根源的なことをいえば、自分は何のために生まれてきたのか、なぜこうして生きているのか、自分のやるべきことは何なのか、ここまで立ち返って考えることで人間としての原点が見えてきます。
いたずらに悩むより、とにかく行うこと、つまり、行動すれば、必ず迷いが吹っ切れるときがきますし、ふっきれない迷いも、惑いもありません。
この社会は人間同士の関わり合いで成り立っていますが、迷いや惑い、苦しみの多くは、相手との出会いや別れ、その関係の中で交わされる言葉や行動のなかで発生しています。
「彼のあの言葉でひどく傷ついた」、「私にこんな仕打ちするなんて」、「どうして私だけがこんな辛い思いをしなくちゃならないの?」そんな思いに苛まれ、迷い、惑うこともあるでしょう。
こういう時だからこそ、心の中心を取るのです。
自分は何を望み、何を欲しないのか、何に価値を見出し、何に価値を認めないのか、何を信じ、何を信じないのか……。
こういった考えが自我心から出ているのかどうか。
人間としての自分の原点に立ち返り、生きている自分の基本を見据えてみて欲しいのです。
人間としての原点とは、自分の心の内にある良心であり、拘りを捨てた時の穏やかな心であり、執着しない心であり、他を愛する心であり、慈しむ心であり、自他を許す心です。
中心がはっきりとわかれば、軸がしっかりすれば、一時的な迷いや惑いがあっても、本当の自分を見失うということがなくなります。
中心がハッキリすれば、いま目の前に起きている状況や出来事、事の真実を、ぶれのない位置、すなわち、客観的な立場から自分自身を眺めることができます。
明日の人生を拓くのは、今の心にぶれがなく、中心がとれていなくてはなりません。
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